日本共産党

2002年6月15日(土)「しんぶん赤旗」

自公保はこの苦しみ分からないのか

担当記者は見た


写真
野党議員が抗議するなか、医療改悪法案を与党単独で強行採決=14日午後10時13分、衆院厚生労働委員会

 十四日、衆院厚生労働委員会で医療改悪法案を単独強行採決した自民、公明、保守の与党。森英介委員長(自民)の声は、野党議員の激しい抗議にかき消されまったく聞き取れないのに、示し合わせたように起立を繰り返す与党議員。採決後、委員長は逃げるように控室へ。公明党の坂口厚生労働大臣は記者会見も拒否し、そそくさと車に乗り込んで国会を去りました。国会と医療現場で取材を続けてきた記者が告発します。


23万円の入院費払えない…
患者と家族が脳裏に浮かぶ

内藤真己子

 小泉首相、坂口厚労相は病苦と生活苦にあえぐ人々のことなど少しも省みていない――。怒りで身体が震えるなか、約一年間の小泉医療改悪反対のキャンペーンの取材で出会った人々の苦渋の表情が脳裏にうかびました。

 昨年六月、きょうと同じ梅雨空のもと訪ねたタクシー労働者の田中力さん(58)もその一人です。胆石の持病がありましたが、小泉首相が厚相時代の九七年、健保が二割負担になってから受診を中断せざるを得なくなっていました。ところが昨年、激痛に見舞われ胆のう全摘手術を受けることに。しかし二十三万円の入院費が払えず、途方に暮れていました。

 不況と競争激化で賃金は数年前に比べ月八万円以上ダウンして生活費にも事欠き、借りたサラ金の支払いが月五万円あったのです。

 当時、人気絶頂の小泉首相が健保三割を計画していると話すと、「エッ本当ですか? 小泉さんって本当は、今よりひどい弱肉強食の政治なんだね」とつぶやいた田中さん。“これ以上まだまだ痛めつけられるのか”とでもいいたげな、怒りとあきらめが混じった悲しい顔でした。

 この一年の取材で、リストラされてホームレスになっていた患者さんや、病院追い出しで行き場のない“入院難民”になった人、月八万円の年金で、真冬の夜にストーブもつけられない寝たきりの老いた母と五十代の娘――深刻な現実に次々ぶつかっていきました。そのたびに深いため息をもらしたことを思い出します。

 国民は、こんなにも追い詰められているのに、いままた医療改悪が強行され一兆五千億円の負担増を押しつけられたらどうなるか。「値上げされたら、首をくくるしかない」「年寄りは死ねというつもりか」――全国各地でとりくまれた、医療改悪反対のはがき署名に添えられた国民の「一言」がそれを物語っています。

 強行採決に抗議し、国会に詰めかけた人からは「小泉内閣にレッドカード」「もう解散・総選挙しかない」との声が上がりました。まったく同感です。国民いじめの暴挙を繰り返すこんな内閣は本当に終わりにしなければ…。医療改悪法案廃案に向けた第二幕のたたかいへ、決意を新たにしています。


地方の声を"存分に参考"
その翌日に強行とは

秋野幸子

 毎日の生活や老後に多くの不安をかかえる国民の悲痛な声に耳を傾けようともしないで、医療改悪法案の採決を強行した与党の姿勢は、安心してくらせる社会保障の充実を求める国民の願いを踏みにじるもので、絶対に許せません。

 与党議員はこの日「委員会での審議は十分につくされた」とのべ、強行採決を正当化しようとしました。しかし、与党三党の質問時間は合わせてたったの五時間程度。連日満席の傍聴席に対して自民党席はガラガラで、審議中も委員室をウロウロと歩き回る様子は、「こんな状態で採決だけ急ごうとする姿勢は許せない」と傍聴者の怒りをかいました。

 前日(十三日)に名古屋、宇都宮両市で開かれた地方公聴会では、公述人から「さらに慎重な審議を続けてほしい」との注文が出され、与党議員も「国会の審議に存分に参考にする」(公明党の江田康幸議員)と約束したばかりです。十一日の参考人質疑では法案の問題点を指摘する声が相次ぎ、法案を積極的に評価する意見は一つもありませんでした。とても「議論がつくされた」と言えるものではありません。

 政府は、医療改悪法案について「将来にわたって安心できる医療制度にするためには避けて通れない」と繰り返しています。しかし、審議を通じて明らかになったのは国民負担増の深刻さばかりです。

 改悪案は、長引く不況に苦しむ国民に、一兆五千億円もの新たな負担増を押しつけるもの。労働者にはすべて三割負担、そのうえ一人あたり平均で一万五千円の保険料値上げというダブルパンチが待っています。

 国民に過酷な負担を押しつける一方、医療費への国庫負担は減らし続けたまま。「保険財政が厳しいから、痛みを分かち合わなければならない」といいつつ、財政を悪化させた最大の原因である国庫負担の削減はそのままにして、国の責任を放棄しています。

 こうした改悪法案に対する反対の声は、全国でかつてなく広がっています。国会に提出された反対署名は二千六百万人分にのぼりました。

 強行採決後、国会周辺では、与党の暴挙に抗議する労働組合や医療団体などの人たちの声がひびきわたりました。日本共産党など野党四党は集会で、改悪法案を廃案に追い込む決意を固め合いました。医療改悪阻止のたたかいは、正念場を迎えています。


医療改悪法案の主な内容

【今年10月実施】

 ▽70歳以上の患者1割負担を徹底。通院の定額制(1回850円、月4回まで負担)は廃止

 ▽70歳以上で一定以上の所得(一人暮らしで年収380万円程度以上)の人は2割負担に

 ▽自己負担限度額を引き上げ(高齢者、現役とも)

 ▽0〜2歳の患者負担を2割に(現在通院は3割)

【03年4月実施】

 ▽サラリーマンや退職者本人と家族(入院)の患者負担を引き上げ、3〜69歳はすべて3割負担に

 ▽ボーナスからも月収と同じ割合で保険料をとる「総報酬制」を導入

 ▽政府管掌健康保険の保険料率を年収ベースで7・5%から8・2%(労使折半)に引き上げ

 


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