日本共産党

2002年5月13日(月)「しんぶん赤旗」

化学兵器禁止国際機関の事務局長「解任」

引きずり下ろした米国


抜き打ち査察の動きに反発

対イラク攻撃に“じゃま”と

 化学兵器禁止条約(CWC)の履行にあたる化学兵器禁止機関(OPCW)のブスターニ事務局長がこのほど「解任」されました。信頼が厚かった同氏をしゃにむに引きずり下ろしたのは米国でした。同国の横暴に国際的な批判の声があがり、背景にあるブッシュ政権の意図に懸念が広がっています。(ロンドンで田中靖宏)

兵器廃棄へ成果

 一九九七年に発効した化学兵器禁止条約は、十年以内にすべての化学兵器を廃棄することを取り決めたもので、単一分野の兵器の完全廃絶を目指した史上初の多国間条約です。核不拡散条約(NPT)と違って加盟国間に差別がなく、対等平等の原則が貫かれています。抜き打ち査察を取り決め、検証の実効性もある内容になっています。

 これまでに百四十五カ国が加盟。すでに二百万発の化学兵器を廃棄し、世界の化学兵器生産施設の三分の二を除去する成果を上げました。

 その実行をリードしてきたOPCWのブスターニ事務局長は、ブラジルの外交官。就任以来の仕事を評価され、昨年は加盟国の全会一致で二期目の留任が決まりました。

米が排除の圧力

 ところが今年一月になって米政府が同氏の排除に動きだしました。ブラジル政府へ圧力を加え、財政問題などでの「管理能力の欠如」や「偏向」をあげてブスターニ氏に辞任を勧告しました。

 同氏がこれを拒否すると、米政府は三月、CWC執行理事会で不信任決議を提案。これが失敗すると、今度は加盟国全体の特別総会を提案しました。特別会議がハーグで開催され、四月二十二日、解任決議案が賛成四十八、棄権四十三、反対七で通りました。

 ブスターニ事務局長はこの策動を「クーデター」と批判。特別総会で一連の出来事の経過と背景を詳しく述べました。

 何より強調したのは、条約履行にあたっての加盟国の対等平等の原則、差別ない取り扱いです。同氏は、公平性をOPCWの生命だとし、その貫徹が米国からの「偏向」批判を呼んだと述べています。OPCWは近く五カ国への抜き打ち査察を計画、この中に米国が含まれていました。

公平性が“理由”

 米当局者が「相談なしの査察」を非難したと報じられるように、公平の原則で米国を抜き打ち査察の対象にしたことが「解任」の直接の理由と指摘されています。

 もともと米国には軍部を中心に外部査察を受けることに強い反対があります。同条約批准の際の米議会付帯決議は、査察拒否の権限を米大統領に与えています。OPCWの方針はこれと真っ向から対立しました。ブスターニ氏は陳述で、問われているの同氏の職ではなく、条約の公平性とOPCWの独立性であると強調しました。

米政府の横暴

 査察以上に懸念を呼んでいるのは、イラク問題との関連です。ブスターニ事務局長は同条約に加盟していないイラクに粘り強く加盟を働きかける姿勢をとっていました。イラクのフセイン政権を説得して化学兵器廃絶の国際体制に迎え入れることが平和の維持にとっても重要との認識にたったものです。

 この姿勢はしかし「悪の枢軸」論にたってイラクへの軍事攻撃計画を進めるブッシュ政権の方針と重大な食い違いをもたらします。英紙ガーディアン四月二十四日付の社説はそのことを指摘し、こう述べています。

 「ブスターニ氏の方針は、イラク攻撃に突っ走る米政権内のタカ派とイラクのフセイン大統領の間に割って入るかたちになった。査察についての平和的な話し合いは、米国の軍事攻撃計画を台無しにしかねない。米政権による執ようなブスターニ氏排除はそのためではないか。米政府は疑念に答えるべきだ」

 ブスターニ氏の解任劇は、ブッシュ政権が軍縮から環境問題まで国際条約を破壊し、骨抜きにして自国の利益追求に動いていること、またイラクへの危険な軍事攻撃計画をどんな障害をも排除して強行する姿勢であることを示しています。

 


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