日本共産党

2002年5月10日(金)「しんぶん赤旗」

わずか3日の審議でわかった

有事三法案の大問題


 政府が提出した有事法制三法案=戦争国家法案の審議が、衆院有事法制特別委員会で始まって三日。海外での武力行使にも歯止めがなく、どんな事態でも政府の勝手な判断で「武力攻撃事態」となる――早くも法案のこんな危険な中身とでたらめぶりがあらわになっています。

「おそれ」「予測」で武力行使も

米の戦争に参戦の仕掛け

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 今度の有事法案(武力攻撃事態法案)は、武力攻撃が「発生した場合」「おそれのある場合」「予測される事態」の三つのケースを発動対象としています。

●禁止規定なし

 「おそれ」や「予測」の段階で自衛隊が武力行使をすれば、武力攻撃を受けていない段階での武力行使ということになり、自衛反撃で説明がつかないことになります。

 このため、小泉純一郎首相は、日本共産党の志位和夫委員長の追及にたいし、「おそれ」や「予測」の段階で「武力行使はしようがない」と答弁しました。ところが、法案には、「おそれ」や「予測」の段階で武力行使を禁止する条項が「書かれていない」(中谷防衛庁長官)のです。

 政府は一方で、アメリカがアジア太平洋で軍事介入した場合に起こりうる「周辺事態」と、今回の法案でいう「武力攻撃事態」が大きく重なると認めています(図参照)。そうすると、日本がまだ攻撃を受けていない「おそれ」や「予測」の段階でも、アメリカと一緒に武力攻撃にふみだしかねない危険が法案の構造上からはみえてきます。

 国際的にも自衛権は武力攻撃への反撃としてだけ認められています。そのため、自衛隊法では武力行使についての条項に「国際の法規及び慣例によるべき場合にあってはこれを遵守し」という規定を入れています。これまで政府が、これによって先制的な武力行使はしてはならないと説明してきた規定です。ところが武力攻撃事態法案では、この規定がすっぽり抜け落ちているのです。

 政府は「自衛隊法に書いているから書かなくていい」(中谷長官)などといいますが、問題はそれをなぜわざわざ落としたのかです。米国が無法な介入戦争を起こした場合、日本が国際法を無視してでも参戦するための仕掛けではないか―こんな疑いさえ起こります。

●混乱の政府答弁

 小泉首相は「おそれ」「予測」の段階では、武力行使できないとのべましたが、本当にそうなのか。日本共産党の木島日出夫議員は「武力攻撃事態への対処措置」の定義を規定した条項(二条六号イ)に、武力攻撃の「おそれのある場合」を含むかどうかをめぐって政府を追及しました。

 この条項には「武力攻撃を排除するために必要な自衛隊が実施する武力の行使、部隊等の展開その他の行動」があげられています。ここでいう「武力攻撃」には「おそれのある場合」を含むのかどうかで、福田康夫官房長官の答弁は二転、三転。当初「含まない」と答弁していましたが、そうなると、自衛隊は「おそれ」の段階でも「部隊等の展開その他の行動」はとれないことになるため、一転して「おそれのあるときも含む」と答弁しました。

 ところが、「おそれ」も含むとなれば、「おそれ」の段階でも武力行使ができるということになり、首相答弁をくつがえすことになります。

 結局、“「武力攻撃」という言葉には「おそれの場合」は含まれていないが、条文の後段部分「部隊等の展開その他の行動」には「おそれ」や「予測」段階の準備行動を含む”という支離滅裂な答弁で逃げるしかありませんでした。

 日本の実力部隊である自衛隊がどう動くか、その結果、国民の人権と自由はどうなるのか――まさに国の根本にかかわる重大法案にもかかわらず、こんなでたらめな答弁しかできないところに、この法案の危険性と欠陥がくっきりあらわれています。

他国領域、公海上でも

政府の勝手な判断で発動

 「武力攻撃事態」とは、それが起これば有事法制が発動されるというもので、最も基本的で重要な概念の一つです。ところが政府は、それがどのようなものなのかについて、「千差万別で、一概に言えない」(中谷長官)などといっています。

●海外の自衛隊も

 一方で、「武力攻撃事態」がどこまでも広がっていくことが明らかになりました。

 一つは、政府が一九九九年の戦争法(周辺事態法)で、米軍の戦争に自衛隊が支援する「周辺事態」の具体例として示した「六つの類型」(注)がすべて「武力攻撃事態」にふくまれるということです。「六つの類型」は、日本周辺での武力紛争から、紛争後の治安維持、国連による経済制裁、内乱まで含んでいます。

 政府は、「六つのケースすべて、状況によってはわが国への武力攻撃のおそれのある場合、予測される事態に該当することとなる可能性が完全に排除されているわけではない」(中谷長官)というのです。

 さらに政府は、木島議員の追及に対し、海外に出かけている自衛隊への攻撃も「わが国」への攻撃とみなす立場を示しました。

 公海上の自衛隊艦船への攻撃だけでなく、周辺事態法やPKO(国連平和維持活動)協力法、テロ特措法の三法にもとづいて他国の領域で活動する自衛隊への攻撃についても、「わが国に対する計画的、組織的な攻撃だと認定される」(福田官房長官)ならば、「武力攻撃事態」に該当するというのです。

 自衛隊は現在、PKO協力法にもとづいてゴラン高原と東ティモール、テロ特措法にもとづいてインド洋・アラビア海に部隊を派遣しています。これらの部隊が武力攻撃を受けたと日本政府が判断すれば、「武力攻撃事態」に転化し、「武力の行使」も可能になります。

●集団的自衛権に

 これまで政府は、三法にもとづいて海外に派兵される自衛隊部隊について「戦闘地域には行かない」「武力の行使はしない」と言い続けてきました。

 ところが「武力攻撃事態法案」が成立すると、海外に出かけている自衛隊が、「武力攻撃事態」だとして、海外で武力行使をすることになります。そうなれば米軍支援のために派兵された自衛隊は、米軍と共同で武力行使することになり、憲法で禁止された集団的自衛権の行使に踏み切ることにもなります。


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