日本共産党

2002年4月17日(水)「しんぶん赤旗」

政府への従属を強める国立大独法化

分権・自治的運営に逆行

林大樹


 全国の国立大学・高専・大学共同利用機関にはたらく教職員の労働組合である全大教は、国立大学法人化問題に対して、独立行政法人通則法を前提とした法人化に反対してきている。

 反対の根本的な理由の一つは、そもそも独立行政法人のしくみが教育・研究の専門職集団である大学に全くそぐわないと考えるからである。

 独立行政法人化は国の業務について、政策の「企画」機能と「実施」機能を分離し、後者を担当する実施部門に政府から独立した法人格を与え、民間的発想の経営手法を活用して、行政サービスの向上を達成しようとする考え方である。大学の各現場では、各分野の専門家が教育・研究の具体的内容を企画し、実施し、評価を行い、その結果を企画にフィードバックするという業務運営のサイクルを日常的に回している。企画と実施は分けがたいのである。

 つまり、独立行政法人化構想にあるような「頭」と「手足」を分断した中央集権的な組織運営は、大学には適合的でない。大学では、それぞれ個性的な多数の現場で、高度の専門性を要する業務が遂行されている。必要な情報が集まるのも現場。判断に必要な専門知識の持ち主も現場にいる。したがって世界の多くの大学では、分権的で自治的な組織運営が歴史的に発達してきたのであろう。学術研究の世界の常識を外れ、独立行政法人化された大学は進歩を止めるおそれがあろう。

大学の自治壊す

 ところで、文部科学省調査検討会議では、大学としての自主性・自律性の十分な尊重を前提として検討が開始されたはずである。しかし、昨年六月の大学の「構造改革の方針」(遠山プラン)が流れを変えたのであろうか。「最終報告」は問題点だらけとなった。

 結局のところ、独立行政法人通則法の枠組みとは別の大学法人像は示されなかった。これから、「最終報告」のまま制度設計が進められることになれば、それは学問の自由とそれを制度的に保障する大学自治を壊し、学術研究・高等教育・医療の発展の基盤を崩し、日本の社会と国民に取り返しのつかない深刻な悪影響を及ぼすことになると思われる。

 「最終報告」の問題点をさらに指摘するならば、教職員の身分が突如「非公務員型」の方向に変更され、教員から教育公務員特例法の適用が外されること。学長に人事権が集中するとともに、学長の選考が大学構成員の総意を反映する選考方式を一律に排除する可能性があること。大学の中期計画の達成度が、文部科学省の中に置かれる評価委員会で評価され、その評価結果が運営費交付金の算定に反映されるために、大学の自主性・自律性は強く制約を受け、結局のところ文部科学省や財務省の意向に従属しなければならないであろうこと、などがあげられる。

学外者の参画

 また、経営面への学外者の参画の強調への危ぐも大きい。たとえば、四月初めの経済財政諮問会議で、委員から、国立大学法人化の二〇〇三年四月への前倒しが提案された。文部科学省は、法人化時期の前倒し案は無理であると述べたと伝えられているが、こうした経過は、国立大学法人の経営に参画する非常勤を含めた多数の学外者の資質、識見によっては、大学が学外者に振り回され、教育・研究の着実な進展が妨げられる可能性を示した点で注意すべきであろう。企業経営とは異なる側面の多い大学経営が、識見をもたず、責任も取れない「学外の有識者」によって混乱させられるとしたら、受け入れがたいことである。

 今後の政府、国会と各大学における法人化の準備作業のプロセスを注視しつつ、学術・文化の未来を担いうる高い自律性をもった国立大学をめざし、問題の分析と要求・対案づくりに引き続き取り組む必要があると考える。


 はやし ひろき=全国大学高専教職員組合中央執行委員、教文部長。一九五四年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科教授、労使関係論。

 


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