日本共産党

2002年4月14日(日)「しんぶん赤旗」

有事立法

憲法を「停止」米国の戦争に国民動員

これが恐るべき内容


 アメリカの戦争に参加するため、国家と国民をあげて戦時体制に移行する――。政府が16日に国会提出しようとしている有事3法案のおそるべき中身が明らかになりました。この法案が発動すれば、憲法停止ともいえる事態が訪れます。そのときになって「どうするか」ではなく、いま反対・阻止の声をあげましょう。

「周辺事態」でも発動

 小泉純一郎首相は、「備えあれば憂いなし」と有事立法を合理化しています。しかし実際は、米国が戦争を起こしたときに「備え」、「憂い」なく参加するための法案であることが、いっそう明らかになってきています。

 有事三法案の中心である「武力攻撃事態法案」では、武力攻撃の「おそれのある事態」や「予測されるに至った事態」も発動対象としています。

「周辺事態とダブりある」

 これは、米国がアジア太平洋地域で軍事行動をおこした場合の「周辺事態」とうり二つ。「周辺事態」は、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態」とされているからです。

 そのことは、政府・与党幹部も国会提出前から認めざるをえなくなっています。

 中谷元・防衛庁長官は「予測される事態」について「当然、周辺事態のケースは、この一つ」(四日、衆院安保委員会)と日本共産党の赤嶺政賢議員の質問に答弁しています。

 自民党の山崎拓幹事長も、「防衛出動待機命令(武力攻撃が予測される事態)と周辺事態には、ダブリはある。そこにきれいに線を引く方法はない」と明言しました。

 つまり、米国が戦争をおこしたら、相手国から日本への武力攻撃が「予測される」として、有事立法が発動される危険があるのです。

 政府資料では、武力攻撃が予測される事態について、武力攻撃の「意図が推測され」、「発生する可能性が高い」と判断されればいいとしています。

 ある国が「日本を攻撃するぞ」という意図を明確に示していなくても、意図が「推測」されるだけで発動できるというのです。

政府が勝手に認定の仕組み

 しかも、有事立法が発動する「武力攻撃事態」の認定は、政府まかせ。国会を排除し、首相などの勝手な判断で認定できる仕組みです。

 これを後押しするのが、安保会議に設ける「事態対処専門委員会」。メンバーは内閣官房職員などから任命されるとしていますが、現行安保会議の事務を担う内閣官房職員の多くは外務省と防衛庁からの出向者です。米国の意向を受けた外務省と日米共同軍事作戦を担う自衛隊が、戦争遂行を国家の最優先課題とする「戦時」体制突入の判断を、事実上握るという危険さえあります。

 米国の戦争に政府の勝手な判断で参戦するための有事立法――。軍事力への信奉を強めるブッシュ米政権のもとで、その発動の危険はいっそう強まっています。

 もともと今回、有事立法が急浮上したきっかけは、アーミテージ現米国務副長官らがつくった「米国防大学国家戦略研究所特別報告」(二〇〇〇年十月)です。同報告は「有事立法の制定を含む米日軍事協力の新指針(ガイドライン)の勤勉な履行」を求めていました。

 ブッシュ米政権は、「テロとのたたかい」を口実に、北朝鮮を含む三カ国を「悪の枢軸」と名指しし、軍事力行使も辞さない路線を示しています。しかも、中国、北朝鮮など七カ国に、核兵器を使用する計画まで検討していることが明らかになっています。

 それなのに、小泉純一郎首相は、軍事力を軸とした一国覇権主義を強める米国を批判するどころか、「悪の枢軸」発言にも「テロにたいする決意のあらわれ」と手放しで称賛。小泉政権の姿勢は、米国の国益追求のための戦争に、日本が追随して参戦し、有事関連法が発動される危険を強めるものです。

 「武力攻撃事態法案」には、自衛隊と米軍の軍事作戦が「円滑かつ効果的」に展開できるようにするため、国・自治体・指定公共機関が物品、施設、役務を提供すると明記されました。

戦死者も想定

 有事関連法では、自衛隊が作戦を展開する上での「障害」を取り除くため、さまざまな特例を設けることもねらっています。

 その中には、公園や河川、森林で陣地などをつくる場合の手続きなどの緩和や、自衛隊が建設する指揮所などへの建築基準法の適用除外のほか、大量の戦死者が出た場合に、自衛隊が既存の墓地、火葬場以外で埋葬、火葬するための特例措置も含まれています。

首相に戦争遂行の権限集中

 「自衛隊の最高の指揮監督権を有する」(自衛隊法第七条)首相に戦争をおこなう権限を与え、国をあげて戦争する体制をつくる――有事三法案が狙っているのは、こんな戦時体制です。戦争をしないことを明記した日本国憲法に反することは明らかです。

「戦時内閣」の体制をつくり

 「武力攻撃事態法案」では、「組織及び機能のすべてを挙げて、武力攻撃事態に対処する」ことを「国の責務」としています。まさに総力体制です。

 その中心になるのが戦争方針(対処基本方針)を実施する「対策本部」です。

 首相が本部長、それ以外の閣僚で副本部長、本部員を構成。まさに「戦時内閣」さながらの体制がつくられます。

 とりわけ首相には戦争遂行のための権限が集中されます。

 一つは、有事立法発動を判断、決定する権限です。首相は「武力攻撃事態」の認定を含む戦争方針(対処基本方針)を自ら議長を務める安全保障会議に諮問。その答申をうけ、今度は自ら主宰する閣議で決定するのです。そして、その方針を実施する対策本部の本部長も首相。まさに独裁的権限です。

 二つ目は、実動部隊である自衛隊にも「最高の指揮官」として出動を命じること。

 三つ目は、国の行政機関はもちろん、地方自治体やNHK、赤十字、NTTなどの「指定公共機関」まで統制下におくことです。

 「武力攻撃事態法案」では、地方自治体や指定公共機関に戦争方針の実施を「指示」。「指示」にもとづく措置が行われない場合、あるいは緊急の場合は、首相自ら、または閣僚を指揮監督して実施させるとしています。

 首相が地方自治体や指定公共機関に対して、直接実施する権限まで与えているのは災害の場合にもないことです。

国会の関与事実上排除

 さらにこうした重大な問題について、「国権の最高機関」である国会の関与は事実上、排除されています。

 法案は、「対処基本方針については、閣議決定後、直ちに国会に承認を求めなければならない」としています。ところが同時に「対処措置の実施前に対処基本方針の国会承認を得ることは必要としない」として、国会の承認がなくても、「対処措置」を実施できるようになっています。

 自衛隊の「防衛出動」も「特に緊急の必要がある場合には、承認を得ないでこれを命ずることができる」としています。

 このように有事立法は、首相に権限を集中し、国会の承認がなくても思い通りに戦争遂行できるような仕組みをつくろうとしているのです。

国民生活のすべて統制下に

 マスコミや医療、通信、運輸、電力、ガスなど国民生活の基盤にかかわるあらゆる分野が首相の統制下におかれる――これが有事法案の描く戦時体制です。災害対策基本法では「指定公共機関」は六十機関。これらが首相の統制下におかれればどうなるでしょうか。

政府発表のたれ流しに

指定公共機関
(災害対策基本法での指定)
 日本銀行、日本赤十字社、日本放送協会(NHK)、日本道路公団、首都高速道路公団、水資源開発公団、阪神高速道路公団、新東京国際空港公団、関西国際空港株式会社、本州四国連絡橋公団、核燃料サイクル開発機構、日本原子力研究所、電源開発株式会社、JR7社、NTT東日本、NTT西日本
 東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、日本通運、北海道・東北・東京・北陸・中部・関西・中国・四国・九州・沖縄の10電力会社、日本原子力発電株式会社、KDDI、NTTドコモ9社、NTTコミュニケーションズ
 独立行政法人(消防研究所、防災科学技術研究所、放射線医学総合研究所、農業工学研究所、森林総合研究所、水産総合研究センター、土木研究所、建築研究所、海上技術安全研究所、港湾空港技術研究所、北海道開発土木研究所)

 マスコミには報道の自由がなくなります。NHKや民放は、政府が「武力攻撃事態」を宣言したとたん、番組編成を変更。警報や政府発表の情報をたれ流すだけでなく、キャンペーン番組や関連番組の編成を求められます。

 交通関係では、日本道路公団など四公団を通じて高速道や一般有料道路も軍事用の迂回(うかい)路とされたり、通行規制を設けたりされます。成田空港や関西空港は真っ先に軍事専用に。その他の港湾・空港でも民間船舶、航空機の航行が制限され、定期便の発着停止や民間船舶の追い出しまで想定されます。

 医療では、日本赤十字社が指定公共機関として、医療班の派遣や輸血用の血液などの準備が迫られます。その他、国立病院や自治体病院も戦争協力が「責務」。米軍や自衛隊の死傷兵の受け入れなどが優先され、一般の患者が追い出される危険もあります。医師や薬剤師、看護師全体が強制的な業務従事の対象です。

「生産調整」や「配給制度」も

 通信の分野では、政府の「対策本部」の電話使用が一般回線より優先。不要な電波発信は制限され、携帯電話はつかえなくなります。NTTなどが保有する機材、設備は「対策本部」に提供されます。

 また「生活関連物資の価格安定、配分その他の措置」として「生産調整」や「配給制度」を実施することを想定。軍事関係の生産を最優先するとともに、国民生活の統制を狙っています。

戦争協力を義務づけ

 国民には戦争協力が義務付けられ、「自由と権利」は失われる――。有事三法案はこんなことまで規定しています。

戦争協力拒否「非国民」扱い

 「武力攻撃事態法案」では政府の戦争方針が実施されるとき、「国民は…必要な協力をするよう努める」と義務化を明記しました。国民を強制動員する根拠づけを行いました。

 自衛隊法では、米軍や自衛隊が必要とする業者や従業員を強制的に働かせることを可能にしています(業務従事命令=自衛隊法一〇三条)。軍事行動に必要な土地や物資のとりあげ、保管命令まで出すことができます。さらに今回の改悪案では、物資保管命令に違反した場合に「六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金」を明記。立ち入り検査を拒否しただけでも罰金刑が待ちうけています。

 また、国や地方公共団体、指定公共機関に戦争協力の「責務」があるとされたため、そこで働く人たちは戦時に「非常招集」される危険が生じます。

 憲法は戦争を放棄し、戦争協力を想定した条項などいっさいないのに、戦争協力を拒否したら罰則や法律違反で「非国民」扱いされる―こんな事態が待ちうけているのです。

言論・表現から移動の自由まで

 「(非常事態に)市民が路上をうろついたら、プロの集団が取るべき行動も取れなくなる」

 防衛大学校の教授がのべたような国民統制がそのまま実施されることになるのも特徴です。

 「武力攻撃事態法案」では、「国民の自由と権利」に「制限が加えられる場合」を明記しました。憲法で保障された「自由と権利」を、こんなに包括的に規制する法律はありません。

 この「自由と権利」制限の具体化では、住民の「避難」、生活基盤の復旧、社会秩序の維持、輸送・通信に関する措置、国民生活の安定などもっともらしい項目が並びますが、実態は戦時の国民統制そのもの。戦時の連絡組織の編成、自衛隊の「展開予定地域」や「警戒区域」での立ち入り禁止・退去命令、警察などの治安対策への協力、通信の秘密制限、生産調整・配給などを想定しています。

 自民党の山崎拓幹事長は、国民が戦争協力した場合の被害補償について質問され、「それは被害じゃない。全体の利益を守るためにはやむを得ないことだ。国家全体の利益だ。一部の国民の利益を守るということではない」(二月五日)と答えました。

 国家の利益さえ守られれば、国民の権利は侵害されて当然―ここに有事法案の本質があります。

 


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