日本共産党

2002年4月10日(水)「しんぶん赤旗」

職員からみた国立大独法化「最終報告」

長期展望もてる研究危うく

西島勝一


 国立大学には、教授会構成員(教授、助教授、講師)外職員も多数おり、協働し教育研究活動を進めています(全国では、教員以外職員が構成員数の半分)。東京大学には約三千人の事務・図書館・技術・医療・海事などの専門家がおり、文部科学省の国立大学法人化方針案「最終報告」に、強い危ぐを抱いています。これら職員は、自らの身分や処遇にかかわる重要事項についてさえ、公表以前に情報すら知らされないような疎外された状況に置かれ続けてきています。

 「最終報告」は、全国約十二万大学教職員の「非公務員化」を一つの柱とした内容で、私たちの身分の根幹にかかわるものとなっています。このような重要事を、該当者や当該職員組合の意見を聞くことなしに進めようとする、非民主的なやり方に、またまた怒りを覚えます。ほんの一部分教員の兼業自由化等を例にして非公務員化の結論を導いていますが、圧倒的多数教職員への利点(あるいはリスク)等の論議がほとんどない内容にも納得できません。

研究所支える職員の張り合い

 四月からも、公務員試験に合格した新職員が就職してきました。「二年後には公務員でなくなるかもしれない」との周知もない(国家による詐欺的)採用に、無責任さを感じます。

 私の働く生産技術研究所は、全国大学最大規模の工学系部局で、教授会構成員約百十人、助手約八十人、技術約九十人、事務約七十人、定員外職員百二十余人で運営されています。研究所の仕事は、理論的な見通しを主分担とする教授のほか、助手や実験的考察面を主に分担する技術職員、院生、学内外共同研究者や事務職員等のチームワークから貴重な成果がもたらされています。技術・事務・図書館職員は、(各省のノンキャリアと同様)行政職給料表を適用されています。

 技術職員(全国大学では約六千人)には、▽コンピューターセンターの運営や安全管理(ネットワーク侵入者から貴重な研究成果を保護など)、▽百を越える異分野研究室からの依頼に応じた試験観測装置、試料の作成(金属、木、ガラスなどの素材、多くが本邦初的の希少品)、▽微細な現象、高熱・高速動向の可視映像化、デジタル記録化、等々の全所を対象とした共通技術業務を行なっているグループもあります。また、各研究室に所属して教授や助手等とともに特定専門分野の研究に従事している者も多数います。

 例えば、▽空気や液体の流れを取り扱う流体力学関係の研究には、実現象を解き明かす風洞実験のプロ、▽半永久的であったと思われたコンクリートの劣化現象を、二十数年間の海洋環境下での暴露実験から解明していく仕事、▽水環境問題で、関東地方から熱帯地方まで、土の物理特性等を評価する技術業務、など多岐の課題に挑戦しています。未知の現象や完成見通しが不明なものを多く対象としている国立大学の研究には、期限を限定しない、(専門分野間や、理論・実測等の役割分担間での)幅広い共同、経験を積み重ねた人材が欠かせません。目的が明らかで期限付き的研究が多い企業との違いがあります。

 これら技術・事務等職員の給料は、本省キャリアの特別優遇と対照的に、国家公務員中最低位におかれています。普通でいう2階級格下げ状況です。教官でも「そんな安月給の大学にいないで転職したら」と言われるとぼやいていますが、技術職員等は、その教員の半分程度です。そんな低い位置付けの中でも働いている理由は、協調的で自由な気風と長期展望のもてる環境にあるからです。研究や教育の大切さを一つの張り合いと思っているのは、もちろんです。

国立大学の力量低下させる恐れ

 「最終報告」の、身分保障を(公務員)法律規定から就業規則へ不安定化し非公務員化する、任期制の導入、競争原理に基づく評価賃金等の方向は、大学研究所が持っていた自由で協力的、長期展望可能な雰囲気を危うくするものとなることでしょう。対外的に評価されやすい一部分の教授や事務上層部の処遇上積みと、多数職員への評価漬け・処遇低下がますます進むのは、ゴメンです。

 研究所(部局)教授会の審議事項を当該部局内の教学問題だけに限定し、人員配置等は教授会の権限外とし役員会の専決事項とする「最終報告」は、研究教育の視野を狭くし、教員と他職員の結びつきを希薄にし、研究者や教育者が必要とする適切な人員や予算の配置よりも経営効率が優先されることとなり、国民や国の貴重な財産である国立大学の力量を、低下させるものとなる恐れが大です。

 「最終報告」は撤回して、大学へ論議を差し戻すべきです。

 (にしじま しょういち・東京大学生産技術研究所技術専門官)

 


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