日本共産党

2002年3月23日(土)「しんぶん赤旗」

医療は国の責任です

欧州の患者負担にみる


 小泉内閣はサラリーマン本人の医療費三割負担など国民に負担を押し付ける医療制度改悪を進めようとしています。欧州諸国では、病気になった際の患者の負担は極力抑えられており、英国、ドイツ、イタリアなどでは医療機関の窓口での支払いそのものがありません。もちろん各国の制度には予算上の制約から診療まで一定期間待たされることがあるなどの問題点もたくさんあります。しかし、共通しているのは、国民の健康を守る医療は国の責任だという基本的な考え方です。欧州諸国での患者負担の実態についての現地からリポートを掲載します。「しんぶん赤旗」では今後、各国の医療制度について詳しく紹介していきます。


写真
ロンドンの国民医療制度(NHS)の総合病院ガイズ病院の入り口(田中靖宏撮影)

出産、予防接種も無料

イギリス

 「支払いは大丈夫かな」。日本の病院に行ったときのこんな心配が英国では一切いりません。主に国の一般財源で賄われている全額無料の国民医療制度(NHS)があるからです。病気やけがの場合の検査や治療、救急医療から出産、予防接種まで全額無料で医療が保障されています。

 外国人でも仕事で滞在している人やその家族はもちろん、一年以上の滞在であれば研究者や学生でも対象になります。短期の旅行者でも救急患者は無料です。

 NHSの病院や診療所には受付だけあって会計の窓口はありません。診察が終わると、この窓口にいって次の診療日の予約をします。

 居住地近くの診療所にいって登録すると、そこの医者がホームドクターになって、いろいろな相談にのってくれます。医師の隣に看護師の部屋があって、ここでも健康管理の相談に応じています。必要な時は往診もしてくれます。精密検査や本格治療が必要な病気は専門医に紹介してくれます。(ロンドンで田中靖宏)

医療予算を9.9%増額

 英国では、国民医療制度(NHS)の予算が今年から全国平均9.9%増額されました。

 予算増額はブレア政権が総選挙で公約した「国民医療の優先」政策に基づくもの。不評だった手術や精密検査の待機期間短縮のための応急措置として、6カ月以上順番を待っている患者は、全額NHSの費用で民間病院や外国での治療を選択できるようになりました。

 第一陣となったのは、白内障や関節炎で手術待ちしていた患者9人で、1月18日、英南部ケント州アシュフォードから英仏海峡横断特急ユーロスターに乗り、約2時間のフランスのリールの病院に入院、治療を受けました。

窓口での支払いなし

ドイツ

 「日本に滞在していてびっくりしましたよ。かぜを引いたので病院で診察を受け、帰りかけたところ、追いかけてきて『代金をいただきます』と請求されました」とドイツの知人がいいました。

 ドイツでは、治療費は原則として、病院・診察側の請求にもとづいて保険から支払われます。歯科の一部では本人負担がありますが、どの場合でも、患者側が日本のように「窓口」で診察料や治療費を支払わなければならないということはありません。

 保険料負担は、被雇用者本人と雇用者の折半です。収入がない人や失業者には、福祉局や労働局が治療券などを発行、これを使って無料で治療が受けられます。

 知人のドイツ人は、「保険制度というのはいざ病気になっても心配しなくてすむようにとの社会連帯の精神です。ドイツの医療は、質など細かな点をいえば問題はあるでしょうが、連帯の機能はうまく働いているのではないですか」と話します。(ベルリンで坂本秀典)

専門医療は4000円程度

イタリア

 「病気になってもお金の心配なく診察、治療が受けられるので安心です。質の面でのいっそうの改善は必要ですが」―ローマ近郊に住む年金生活の男性(56)はイタリアの医療制度についてこう語ります。

 イタリアでは、すべての国民に等しく健康を保障するという理念に基づいて、無料を原則とする「国民保健サービス制度(SSN)」が設けられています。

 費用は保険から支払われ、いわゆる治療費など「窓口」での支払いはありません。入院も無料です。車いすなど治療に必要な医療器具も給付されます。急病の場合は全国の国公立病院に設けられた救急窓口で無料の応急処置が受けられます。特別の専門医治療の場合には最大約四千円程度の負担があります。

 利用が無料とされる一方で、慢性疾患の場合では診察までの待機期間が数週間から数カ月に及ぶことや、都市部ではベッド数が不足するなど、質の面での問題も多く抱えます。(ローマで島田峰隆)

2つの保険で全額戻る

フランス

 フランスの医療制度は医師にかかった際の診察料、医師から処方せんをもらって薬局で買う薬代とも払い戻し方式が基本です。患者が医師や薬局にいったん全額を支払い、医師がくれる還付請求書を患者自身が社会保険事務所に提出、社会保険でカバーされる分のみ払い戻しを受けます。払い戻される率は外来の診察料で七割、薬代については種類によって35―65%。残りは患者自身の負担となります。

 入院した場合の還付率は基本的に八割。公立病院や全国医療保険金庫に公認されている病院では社会保険でカバーされる医療費が社会保険から直接病院に支払われます。

 ただし、国民の約半数が自己負担金をカバーする任意加入の補助的保険制度、共済保険に加入しており、患者本人の負担がなくなる仕組みです。

 生活困窮などの事情で社会保険に加入していない人を対象にした新しい医療保険制度、「包括健康保険」も二〇〇〇年から始められました。保険料は安く抑えられ、一定の収入以下の人には保険料の支払いが免除されます。(パリで山田俊英)

 


もどる

機能しない場合は、ブラウザの「戻る」ボタンを利用してください。


著作権:日本共産党中央委員会 
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 Mail:info@jcp.or.jp